2007-11-22 (vol. 141) | |||||||||
─ 曽我麻佐子さんインタビュー |
|||||||||
本編に戻る |
|
||||||||
|
|||||||||
【インタビュー】 モーションキャプチャとダンスの可能性 曽我 麻佐子さん(龍谷大学 助教)
■モーションキャプチャというのはどういう技術ですか。 『人体の関節周辺にセンサーをつけて、その点の動きを三次元データとして計測。そして3Dアニメーションにするというもので、1990年代から本格化した技術です。私は99年からダンスのデータ収集を行っています。元々、私自身もダンスをしており、人体の動きに興味がありました』。 ■モーションキャプチャ技術はすでに映画やゲーム、アニメといったエンタテインメント分野でも使われていますが、ダンスと組み合わせた研究とは面白いですね。 『バレエやコンテンポラリーダンスのプロのダンサーの方に協力していただいています。取得したデータは点の情報のみですが、CGで肉付けをすると衣装を着せかえたり、犬のぬいぐるみを踊らせたりすることができます』。
■スイスのローザンヌ工科大学のバーチャルリアリティラボに10月から半年間滞在されるとか。 『ここは人体アニメーションに関する先駆的な研究所で大御所なんですよ。私がこの研究に取り組んだときから、機会があればぜひ行きたいと思っていた』。 『ラボにいるのは全員、博士課程の学生なのですが、技術、人材、環境、先生とすべてレベルが高い。研究の蓄積も膨大にある。たとえば私が骨格データにCGの犬のぬいぐるみをつけて動かしたときに腹部が割れることがあった。ところがラボではそういう人体アニメーションと関連したCG処理のツールもすでにあるわけです』。 ■ もともとダンスと関わりがあったということですが、研究を通して踊りの見方はかわりました? 『99年以来、バレエが500-600、コンテンポラリーダンス200-300の基本動作データを収集しました。プロのダンサーというのは、かなり正確に踊ることができます。ピタッと止まったり、きれいな軌跡を描いたりするのがデータにも出てきます。身体のコントロールがすばらしいんですね。そういうことがデータの収集・分析を通じて明らかになりました』。 『それからモーションキャプチャを医療分野で使われている理学療法士の先生と一緒にバレエを観に行きましたが、その先生が注視しているのは骨の動き。作品を見ていて「おっ」と気になるところが 私とは異なるわけです。踊りには色々な見方があるということがわかりました』。 ダンサーとの 協力関係が 不可欠 ■舞踊研究を行っているロンドンのラバンセンターに行かれたこともあるとか。モダンダンスの父として知られるルドルフ・ラバン(1879−1958)が開発した舞踊の記譜法(ラバノーテーション)はデジタル技術とも親和性が高そうですが、実際のモーションキャプチャの反応は? 『共同研究を行っている先生が2004年に1年間ラバンセンターに滞在。そのときに私も何度か訪問して講演や評価実験をさせてもらいました。同センターでは興味を持って下さった先生方も何人かおられましたが、私は当時バレエを研究対象としていた。そのため、なぜバレエなのか?という質問が多かったです。コンテンポラリーダンスを研究対象にしていたら もっと興味を持ってもらえたと思います』。 『モーションキャプチャの技術は記録、分析、教育、創作支援などに使えると考えられます。ただ、研究者の立場からバレエ教室で使えると考えても実際には難しい。私自身も10代のときからバレエや新体操を習っていましたので実用の難しさが理解できる。逆にいえばユーザーの立場としても自分の研究を見るようにしています』。 『データ収集のために協力していただくダンサーの方も反応がさまざまですね。興味を持ってくださった方は自分の動きを客観的に見ることができたので、自分の動きがよくなった、と言って下さります。いずれにせよ、用途開発をすすめていくにはデータ収集に協力してくださるダンサーの方たちに技術に対する理解をいただくことが不可欠ですね』。 ■ダンスの教育の場では、モーションキャプチャを導入するのは難しい部分が多いようですが、創作という点ではどうですか 『最近は性能がよくなったので、リアルタイムに動きがとれるようになりました。歌舞伎の作品(※)で河童のCGを動かすということを取り入れられたことがあります。裏で役者さんが動くとCGに反映されるというものです』。 ※ 「秋の河童」(2002年3月 国立劇場)劇団わらび座 『また、バレエとコンテンポラリーダンスの基本動作データがたくさん集まりましたので、これらを使って新しい振付を創作するシステムを開発しているところです。できれば実際の創作活動や舞台作品で使ってもらいたいですね』。 ■表現としてのダンスでは、呼吸とか間(ま)が大切な要素になってきます。骨格動作と一緒にダンサーの生理状態もわかれば面白い分析ができそうですね。 『実際には難しいところもありますが、技術的にはできると思います。またモーションキャプチャと脳波を一緒にとりたいという話はよく聞きます。最近はダンサーの動きと同時に床の圧力変化や目の動き、筋肉の収縮などのデータをとっているケースもあるようです』。 『また、舞踊の学科をおく大学でモーションキャプチャ システムを導入するケースが増えてきています。実際にはどのような使い方をしているかはわかりませんが、ダンスとモーションキャプチャを組み合せた研究はこれから増えてくると思います』。 ■たとえば、大阪にはコンテンポラリーダンスの拠点があり、同時にロボット技術を振興しています。こういう街でモーションキャプチャの技術でロボットとダンサーの組み合わせによる舞台があると面白いですね。 『モーションキャプチャは二足歩行のロボットの開発などに使われていたと思います。ダンスについては、ホンダのヒューマノイド型ロボット・アシモなどがパラパラと呼ばれるダンスを踊っている』。 『ロボットにもっと高度なダンスをさせることに興味はありますが、まだ実際には取り組んでいません。私の知る範囲ではモーションキャプチャのデータをロボットに当てはめる実験を見たことがあります。しかし、なかなかうまくいかず、ロボット自体が壊れてしまったようです。私自身は小さな人形のようなロボットを踊らせてみたいですね』。 <取材メモ>相互の刺激に期待 ドイツでしばしば感じるのが、現代芸術の創造性にイノベーションが重ねられるということだ。逆にいえば、イノベーションの潜在力やイメージそのものを表現するために現代芸術が用いられるようなところさえある。 現代芸術がイノベーション鼓舞の過剰なプロパガンダに使われることは用心しなければならないが、創造性そのものには期待感や進歩性を感じ取ることができのは確かだ。 さて、モーションキャプチャはすでに映画などのエンターテインメントには使われているが、ダンスの分野での活用はまだこれから、という印象をうけた。が、ダンスがもつ創造性と新しい技術がどういうふうに刺激しあうのか興味深い。また曽我さん自身もダンスの経験もあり、この分野の研究者としてはユニークな存在だといえる。(了)
本編に戻る |
|||||||||
■■インターローカルニュース■■ 発 行 : インターローカルジャーナル http://www.interlocal.org/ 発 行 人 : 高松平藏 発 行 日 : 不定期 Copyright(C) Interlocal Journal |
|||||||||
★引用、転載の場合「高松 平藏」が執筆したこと、または「インターローカル ニュース」からのものとわかるようにしてください | |||||||||